(ニューヨーク)レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(以下LGBT)を扱うメディアを検閲するというインドネシア国会の常任委員会の提案を、政府は拒否すべきであると、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは、インドネシア国家通信情報省への書簡内で述べた。インドネシアでは最近、高官がLGBTに対する差別的基準を法制化すべきと相次いで発言している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィリム・カインは、「LGBTのコンテンツをめぐる広範な検閲は、インドネシアのLGBTコミュニティに対し行われてきた政府の攻撃のレベルを、更に悪化させるものだ」と指摘する。 「性的指向や性自認に関する情報へのアクセスは基本的権利であり、政府はそれを否定するのではなく、守るべきなのだ。」
インドネシア政府は、LGBTコミュニティを検閲し、沈黙させようという試みを止めるべきで、同時にインターネットやモバイルアプリ会社も、こうした政府の動きを拒否する必要がある。インターネットは、LGBTの人びとにとり「守られた場所」であると同時に、必要不可欠な情報へのアクセスを提供し、人権活動家が変化を起こす拠点となってきた。インターネット会社は、これらの権利を奪う政府の動きを拒否し、情報へのアクセスというユーザーの権利(知る権利)を擁護する責任を負っている。
2016年3月3日に、国防省・外務省・通信情報省の国会委員会(Commission I)が、「LGBT関連の放送に対する統制を強化し、LGBTコンテンツ配信における違反行為への厳罰処分を確実にすることを目指す(インドネシア放送委員会(KPI)への)措置を勧告した。特に 同委員会は、通信情報省およびKPIがLGBTコンテンツを「促進・伝播」しているオンラインサイトを閉鎖すべきであり、またそれをサポートするために必要な規制を起草すべきであると勧告。同省はこれら勧告に従うつもりであることを公に示唆している。
2月12日には通信情報省が、「多数のユーザーを擁した国の文化および地域特有の叡智を尊重」しないコンテンツを削除するよう、メッセージアプリ会社に求めた。日本のモバイルメッセージアプリ会社LINEは、この要求を尊重するかたちで、LGBTがテーマのスタンプの提供を中止。同社はこれまで、インドネシアのトランスジェンダー・コミュニティがデザインしたスタンプをラインナップに入れていた。
同省は2月17日には、ポルノではないLGBT関連情報も「ポルノ的コンテンツ」に含まれるとし、これらを掲載したソーシャルメディアのウェブサイトTumblr(タンブラー)に対し、過度に広範な禁止令を出した。しかし通信情報省はその後、Tumblrと親会社のYahoo!に働きかけ、禁じられたコンテンツをむしろ「自己検閲」するよう依頼すると明言した。
また2月23日には、「女性的な服装」あるいは女性的な話し方の男性の放映を禁止するガイドラインも発表。こうした指示は、公共放送におけるLGBT関連コンテンツの検閲を支持した、国家児童保護委員会(KPAI)と国家放送委員会の声明と一貫している。通信情報省は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR、自由権規約)が保障する表現の自由や差別されない権利を侵害する、後退的な動きを止めるべきだ。これらの行動はインドネシア憲法第28条にも反している。
前出のカイン局長代理は、「インドネシア政府は、市民の表現の自由および知る権利を制限するのではなく、保護しなくてはならない立場にある」と指摘する。「通信情報省は、LGBT関連の情報を検閲する提案すべてをきっぱりと拒否し、政府は差別に立ち向かう普遍的な権利とともにある、というメッセージを発するべきだ。」