Skip to main content
東京新聞・中日新聞 2020年5月22日

 新型コロナウイルスを巡る米中の対立で、今年の世界保健機関(WHO)総会は注目されたが、昨年の総会で、トランスジェンダーの人々にとって歴史的な決定がされたことはあまり知られていない。三十年前の総会で同性愛を精神障害から除いたのが、先週紹介した「アイダホの日」の由来だが、昨年の総会は性同一性障害も精神障害の分類から除いた。自らのジェンダー・アイデンティティー(性自認)を表現するという当然の欲求を、精神疾患と診断してきた長い歴史が終わる。

一方、日本に目を向けると、それから一年が経過した今も、二〇〇三年成立の「性同一性障害者特例法」を改正する動きはほぼ皆無。トランスジェンダーの人々を性同一性障害者として扱う社会に変化の兆しはない。特例法は、戸籍上の性別を変更する要件として、精神科医の診断のみならず、なんと不妊手術まで義務付けている。望まぬ不妊手術は強制断種に該当し、人権侵害であることは言うまでもない。今もトランスジェンダーの中には、戸籍を変える必要性に迫られて望まぬ手術を受ける人は少なくない。

世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(WPATH)は昨年、「有害で非科学的な要素を含んでいる」として緊急の法改正を求めた。日本政府は、国内外の声に、すぐに応えるべきだ。

(ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表)

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

地域/国
テーマ