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Mongolians protest at the Ministry of Foreign Affairs in Ulaanbaatar, the capital of Mongolia, against China's plan to introduce Mandarin-only classes at schools in the neighboring Chinese province of Inner Mongolia on August 31, 2020.  © 2020 Byambasuren BYAMBA-OCHIR / AFP

(ニューヨーク)―中国政府は、内モンゴル自治区の学校の教授言語をモンゴル語から北京語に置き換えるという新政策を停止し、元に戻すべきだとヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。また政府当局は、モンゴル語による教育を求めて平和的に抗議する人びとへの嫌がらせをやめるべきだ。

2020年8月20日、米国を拠点とする南モンゴル人権情報センター(Southern Mongolian Human Rights Information Center)は、教育当局が内モンゴル自治区のすべての小中学校で、新年度から3科目の教授言語を北京語にしなければならない旨を教師に通達したと報告。中国北部の同自治区では、全体の17%を占める少数民族がモンゴル語を母語としている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当部長ソフィー・リチャードソンは、「新疆ウイグル自治区とチベット自治区でもそうだったように、中国当局は教育よりも政治を優先しているようだ」と述べる。「モンゴル系生徒にはモンゴル語の授業も一部継続すると伝えられているものの、このまま段階的に廃止されるのではないかという懸念は非常にもっともだ。」

内モンゴル自治区の学校生徒はこれまで母語で授業を受け、3年生から毎日1時間中国語の授業も受けていた。が、この9月からは、「言語・文学」「道徳と法(政治)」「歴史」の3科目を北京語で行うよう、教育当局は各校に求めている。中国政府が政治およびイデオロギー教育に力を入れていることから、これらの科目が優先された可能性が高い。その他の科目(数学・科学・芸術・音楽・体育およびモンゴル語)の教育指導は引き続きモンゴル語で行われる。

8月31日のモンゴル政府当局の発表によると、2017年の新疆ウイグル自治区および2018年のチベット自治区と同様の手順に続いたこの変更は、甘粛省、四川省ほか6つの省および地域の少数民族学校にも適用される。発表で当局は、「教科書は、[中国共産]党と国家の意向を反映したものになる〈中略〉[そして]党の教育指導原則の実施および教育目標の実現に直接関係している」と述べた。

政府当局は当初、これらの変更を公にしていなかった。抗議の声があがることを予測したとみられる。非公開の協議で当局は中央政府による政策の見出しのみを教師に見せ、命令について後に話さないことを誓約する文書に署名させた。

しかし、この政策が漏えいした後に内モンゴル自治区全域で、広範な学校ボイコットなど、様々な抗議運動が起きたと国外メディアは報じている。数々の動画に、スローガンを叫び、抗議のために学校を出て行く生徒たちの様子が収められていた。当局はこれに迅速な取締りで応じ、モンゴル系活動家の身柄を拘束したり、抗議活動の参加者に暴行を加えた。

政府当局は8月23日、中国で唯一のモンゴル語ソーシャルメディアサイトBainuを閉鎖。 それまで多数のモンゴル語話者が、この政策について同サイト上に不満を表明する投稿をしていた。Weibo(微博)やWeChat(微信)といった中国で人気のソーシャルメディア・プラットフォームでは、「バイリンガル教育」関連投稿の多くが検閲された。当局はまた、これらのプラットフォームで不快感を表明した一部のモンゴル系住民に対して嫌がらせや身柄の拘束をしたと伝えられる。

中国憲法は少数民族の言語権を保障しており、比較的リベラルだった1980年代に少数民族のための中等教育が導入され始めた。しかし近年になって、政府は中国全土、とりわけ新疆ウィグルおよびチベット自治区において、少数民族言語で教育を受ける権利を後退させた。中国政府は近年のこうした動きを、混乱を招く婉曲表現「バイリンガル教育」と呼んでいる。

チベット系保護者の多くは、子どもが両言語で学ぶという考えを支持しているものの、チベット語による中等教育がほぼ完全に中国語に置き換えられている状況を懸念している保護者も一部いる。この方向性は、習近平国家主席のもとで勢いを増した同化主義、漢民族を中心に据えた偏執的愛国主義を反映したものだ。政府当局は現在、チベット自治区内で少数民族の言語活動を促進する地域のイニシアチブでさえ、刑事処罰対象である「分離主義」とみなしている。

過去に中国政府当局は、少数民族の言語政策を批判し、母語教育運動をした活動家たちに嫌がらせをしたり、恣意的に拘禁してきた。2018年、チベット語の権利活動家タシ・ワンチュク氏が「分離主義扇動」として5年の刑を宣告されている。

中国政府の進める同化主義教育政策は、国際人権法、とりわけ1992年に中国が批准した「国連子どもの権利条約」、および署名はしたものの批准していない「市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」に抵触している。どちらの条約も、子どもが自らの言語および文化をもとに教育を受ける権利を保障しているからだ。中国政府は、先住民族の言語教育をめぐる権利および先住民族自らが教育制度や学校を管理する権利を是認した国連の「先住民族の権利に関する宣言」も支持している。

前出のリチャードソン中国担当部長は、「中国政府当局は真のバイリンガル教育を損なうのではなく、提供することに焦点を当てるべきであり、その支持者を迫害してはならない」と述べる。「母国語教育の機会削減は、中国憲法、国際基準、専門家の合意に反するものであり、かつモンゴル系住民の独自のアイデンティティを損なうものだ。」

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