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ドイツ外交: 世界中のLGBTIの権利を守るための新政策

外交政策と援助におけるコミットメントを拡大

A participant at a feminist protest on international women’s day in Munich, Germany on 8 March 2020.  © 2020 ddp images/Sipa USA via AP Images

(ベルリン)— ドイツ政府は、海外のレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・インターセックス(LGBTI)の人びとの権利擁護でより一層の努力を約束したと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。この新コミットメントは、2021年3月3日に採択された外交政策および開発協力に関する独政府の多角的戦略の一環である。

さまざまな目標が掲げられているが、LGBTIインクルージョン戦略の大きな目的は、国際人権機関および地域人権機関でのLGBTIの権利促進について、ドイツの役割のいっそうの強化にある。加えて、この戦略はドイツの在外公館に対し、ホスト国と、また必要に応じて宗教界、ビジネス界、その他のセクターとのあいだで、LGBTI問題にかんする対話をより活発に行うよう定めている。さらに人権侵害のモニタリングと市民社会との密接な協力も、重要な柱のひとつだ。

「ドイツ政府のこの重要な政策が発表されたのは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界中で多くのLGBTIの人びとへの差別が悪化している時期と重なった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのLGBTの権利調査員のクリスティアン・ゴンザレス・カブレラは指摘した。「この政策は、市民社会の強化が焦点のひとつであり、そうした団体が人権の守り手として第一線で果たしている重要な役割と、LGBTIを擁護する活動で直面する暴力やハラスメントをしっかりとふまえた内容だ」と述べた。

この方針は、ドイツ政府が危険にさらされている活動家に援助を提供することを定める。具体的には、ホスト国政府に問題提起すること、必要に応じて公式声明を通じて連帯を表明すること、裁判を傍聴すること、緊急性がある場合には難民としての保護を提供することなどを定める。

開発協力の分野についてこの戦略は、ドイツ政府がLGBTIの権利に「適切な注意」を払うとした。具体的には、海外のLGBTIの当事者団体やLGBTIのための団体に対し、資金提供や技術支援、能力開発、ネットワーク構築の機会を拡大することなどをあげている。

ドイツ政府はEqual Rights CoalitionGlobal Equality Fund国連LGBTI コアグループのメンバーとして、海外のLGBTIの権利にかんするアドボカシーについて、すでに重要な役割を果たしている。今回のLGBTIインクルージョン戦略は、LGBTI権利支援をより有効的に実行するために、外交政策や開発協力に携わる公務員の「適切な初期研修および継続的な研修」を定めるなど、これまでの一連の活動をさらに公式化・拡大化するものである。

LGBTIインクルージョン戦略が採択されたのは、ドイツにある市民社会組織であるドイツ・レズビアン&ゲイ連盟(Der Lesben- und Schwulenverband in Deutschland, LSVD)、ヒルシュフェルト・エディ財団(Hirschfeld-Eddy Foundation)、ジョグジャカルタ・アライアンス(Yogyakarta-Alliance)が中心となって、2012年から継続的に行ってきたアドボカシーの成果だ。これらの団体は2017年、市民社会との協力を戦略の中心に据えることなどの予備的検討事項をドイツ連邦政府に提示したが、その提案の多くがこの戦略に盛り込まれた。

今回のインクルージョン戦略の採用の結果、ドイツ政府は、オランダ政府カナダ政府スウェーデン政府などの国々とともに、LGBTIの権利を外交政策の優先事項として設定した国となった。2月には、ジョー・バイデン米国大統領も、世界中のLGBTIおよびクィアの人びとの権利を促進するための覚書を発表している。ドイツ政府は欧州連合(EU)で強い影響力を有する国であり、LGBTIアジェンダへのドイツ政府の支援は大きな意味がある。

LGBTIインクルージョン戦略では、包括的なセクシュアリティ教育へのアクセスを改善することの重要性が強調されている。これは、子どもたちが性的発達、人間関係、セーファーセックスについて、安全で十分な情報に基づいた実践を育むことができるよう年齢に応じた教材を利用する権利だ。また、ジェンダーに基づく暴力、ジェンダー不平等、性感染症、意図しない妊娠などを防ぐ効果もある。このような情報へのアクセスを拡大することは、性的指向、性自認、および性別特徴に基づく暴力や差別と闘うための重要な手段にもなりうる。

今回のLGBTIインクルージョン戦略は「現地の歴史や、LGBTIの人びとのライフストーリーや伝統は、伝道や植民地史といった関連する側面を含めて、かならず考慮すること」と言及している点も重要だ。ハーシュフェルト・エディー財団はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、こうした懸念をこの戦略に含むよう求めた理由は、グローバル・サウスでは、ジェンダーとセクシュアリティの問題において、同性間性行為を犯罪とする植民地時代の法律など一定の文脈で、ヨーロッパによる植民地化海外伝道がきわめて悪い影響を与えたことを認識する必要があるためだ、と述べた。

LGBTIインクルージョン戦略は、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約市民的および政治的権利に関する国際規約に定められているように、LGBTIの人びとへの差別禁止など、国際的な人権基準を言及・支持している。また、LGBTIの権利を「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」がうたう人間の尊厳の向上の課題として位置づけている点も評価できる。

この野心的なLGBTIインクルージョン戦略の実施のためには、ドイツ国内および海外の市民社会と連携した綿密なモニタリングが欠かせない。ドイツ政府は、3年後にこの政策を評価することを提案しており、この3年後検討の場が、改善と拡大を行う分野を特定する機会となろう。

「世界各地のLGBTIの権利団体のなかには、国家から、そして、国家横断的に、前進を妨害しようあるいは後退させようという力にさらされる団体もある。こうした諸団体にとって、ドイツ政府を含むLGBTIの権利を後押ししてくれる政府からの精神的・物質的な支援はとても重要だ」と、前出のゴンザレス調査員は述べた。「ドイツ政府は人権に基づく包括的な外交政策に向けて重要な一歩を踏み出した。ドイツの関係当局はこの政策を確実に実行すべきである」と述べた。
 

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