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(ワシントンD.C.) - ビルマで政治的な理由で投獄されている政治囚の数は、過去2年間で、2倍以上になった。ここ数ヵ月に限っても100人以上が新たに投獄された。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表する報告書でこのように指摘した。2007年の平和的なデモへの関与したことを理由とした投獄や、2008年に襲来し甚大な被害をもたらしたサイクロン「ナルギス」の被災者支援を理由に重刑を宣告されたケースが相次ぎ、現在収容されている政治囚の数は2,200人を上回っている。

今回の報告書『ビルマ:忘れられた政治囚たち』(全35ページ、英語オリジナル: https://www.hrw.org/node/84743 )は、2007年の平和的な政治的抗議行動に参加したために逮捕され、不公正な裁判によって重い判決を受けた著名な政治 活動家や仏教僧、労働運動家、ジャーナリスト、芸能人、アーティストなど数十人を紹介。この報告書は2009年9月16日、米国連邦議会議事堂でのバーバラ・ボクサー上院議員主宰の記者会見の席上で公開された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマで2010年に予定されている総選挙が多少とも公正と見なされるためには、ビルマの現政権は、国内の全政治囚を即時かつ無条件に釈放する必要がある、とした。「ビルマ軍政指導部が計画している来年の総選挙が反体制派を投獄したままで行われれば、それは単なる茶番ということだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのワシントン・ディレクターであるトム・マリノフスキは述べた。「最近になって国連や外国政府当局者が相次いで懐柔的な態度でビルマを訪問しているが、軍事政権は、逆に、もっと多くの政治家、活動家を劣悪な環境の刑務所に投獄している。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの報告書の刊行に合わせてビルマの全政治囚の2010年総選挙までの釈放を求める世界キャンペーン「2010 by 2100」をスタートする。

「我々は、この政治囚の数が2100名だった7月にキャンペーンの名を『2010by 2100』に決めた。だがそれ以降も政治囚の数は増えていき、現在では約2250人に達している」と、マリノフスキは述べた。「米国、中国、インドなどのビルマの近隣の東南アジア諸国は、ビルマ軍事政権に関与するにあたり全政治囚の釈放を重要な目標として位置づけ、その実現を目指してあらゆる形で影響力を行使するべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは9 月9日付のヒラリー・ロドハム・クリントン米国務長官宛の書簡で、米国政府に対し、対ビルマ政策の見直しを完了させるように勧告。原則に基づいた外交、金融制裁の強化、ならびに適切なモニタリングを伴った形の人道援助の増額という3つを外交の柱をとして、人権状況の改善に注力するよう求めた。

反軍事体性派や活動家、そのほか軍の支配に反対し、政府の活動や方針を批判する勇気のある人々には決まって長期刑が宣告される。ビルマ国内には、政治活動家を収監する刑務所が43カ所、囚人に重労働を強制する労働収容所が50カ所以上もある。

僧侶などが主導した2007年8月から9月の民衆蜂起が政府によって鎮圧された後、弾圧が強まった。非公開法廷や刑務所内の法廷で不公平な裁判が行われ、300人以上の政治活動家や人権活動家、労働運動家、アーティスト、ジャーナリスト、お笑い芸人、ブロガー、仏教僧、尼僧などが長期刑を宣告された。100年を上回る刑期を言渡された人もいる。活動家の刑事訴追の主な根拠とされるのは、自由な表現や平和的な抗議行動、政府から独立した組織の結成を犯罪と規定する時代遅れのビルマ刑法だ。国民的なお笑い芸人ザーガナ氏など20人以上の著名な活動家やジャーナリストが、2008年5月にビルマを襲ったサイクロン「ナルギス」の被災者のための人道援助活動の際に政府の妨害があったことを批判して逮捕された。

この8月には、ノーベル平和賞受賞者アウンサンスーチー氏の自宅に米国人が侵入したことを受けて逮捕されたスーチー氏に対し、不公正な裁判(何度も遅延した)が行われ、有罪判決が下された。世界が軍事政権の残忍 さを改めて認識する機会となった。スーチー氏が書記長を務める政党・国民民主連盟(NLD)は、ビルマの直近の1990年総選挙で勝利を収めた。しかし、この20年のうち14年間をも、スーチー氏は、刑務所及び自宅軟禁下で過ごしている。

「スーチー氏の釈放は、氏の健康のためにも重要だ。そして、反体制派が総選挙とビルマ社会に完全な形で参加することができるようになるためのプロセスを促進するという意味でも重要だ」とマリノフスキは述べた。「しかし、政治信条を理由にした迫害を受けているのはスーチー氏だけではない。サイクロン「ナルギス」に対する政府のきわめて不十分な対応を批判したために投獄されたお笑い芸人のザーガナ氏や、街頭行動を指導した勇気ある女性活動家のスースーヌウェ氏のような人々にも、世界は注目すべきだ。」

『ビルマ:忘れられた政治囚たち』では、以下のような政治囚のケースを紹介している。

ザーガナ氏:2008年11月、ラングーンの裁判所は著名なお笑い芸人/コメディアンで社会活動家のザーガナ氏に59年の刑を宣告(刑期は後に35年に減刑)。支援物資を買い求めたこと、またサイクロン「ナルギス」の被災者支援活動の中で感じた問題点を外国メディアに述べたことが有罪の根拠とされた。ザーガナ氏は1988年の民主化デモ後に1年間投獄されたほか、政治的な発言を理由に4年の刑を宣告されて1990~94年まで服役していた。警察は2007年9月に、僧侶による抗議行動を公然と支持したとしてザーガナ氏を逮捕し、20日間拘束。ザーガナ氏は現在、北ビルマにあるカチン州のミッチーナ刑務所に収監されている。この刑務所は寒さがとても厳しく、親族もなかなか訪れることができないことで知られている。ザーガナ氏本人が投獄中の2009年3月、母親のチーウー氏が亡くなった。

ガンビラ師:2007年11月4日、ビルマ当局は2007年9月の抗議行動を主導した全ビルマ僧侶連盟の幹部ガンビラ師(28)を逮捕した。逮捕の同日に米ワシントン・ポスト紙はガンビラ師の論説を掲載。そこで師は「軍政は一斉検挙や殺害、拷問、投獄といった手法をとってくる。だがそんなものでは、長年にわたって奪われてきた自由を取り戻したいという私たちの強い願いを一掃することはできない」としていた。2007年11月21日、ガンビラ師に対して重労働刑12年を含む68年の刑(後に63年に減刑)が宣告された。弟のアウンコーコールウィン氏は師の身柄を隠匿したとして20年の刑を宣告され、アラカン州のチャウッピュー刑務所に送られた。また義理の兄弟のモーテッヒャイン氏も逃走を援助したとして投獄された。

スースーヌウェ氏:2005年、労働運動家のスースーヌウェ氏は、ビルマで初めて、強制労働(国内で頻繁に発生する人権侵害行為)をさせた地元当局者の訴追に成功。同氏は心臓に持病がある。しかし2005年10月、彼女に対し「当局に対する暴言」を理由に年6カ月の刑が宣告された。氏は2006年にはカナダの人権団体「ライツ・アンド・デモクラシー」からジョン・ハンフリー自由賞を授与された。スースーヌウェ氏は2007年11月に、同年8月の平和的な抗議行動を首謀したとして再逮捕された。2008年11月には、反逆罪と「公衆に恐怖または警戒心を引き起こす意図」を理由に12年6カ月の刑を宣告された。

ミンコーナイン氏:1962年生まれのミンコーナイン氏は、ビルマ全学連(ABFSU)の元議長で、1988年8月8日に始まった反軍政運動「8888蜂起」時の学生指導者の一人である。1989年に逮捕された後に「法と秩序、平和と静穏を害する動乱」を扇動したとして20年の刑を宣告され、2004年11月に15年ぶりに釈放された。その後2007年8月に平和的な抗議行動に参加して、8888蜂起時の他の指導者と共に逮捕された。2008年11月11日に65年の刑を宣告された。なお勾留中に拷問を受けたとの情報がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、医療と衛生管理が劣悪な遠隔地の拘禁施設に収監されている多くの政治囚の健康状態をたいへん懸念している。ビルマ政府は、赤十字国際委員会(ICRC)が被収容者の支援のために行っている刑務所訪問の再開をただちに許可すると共に、その他の独立した国際人道団体にも刑務所へのアクセスの許可を与えるべきである。ビルマ政府は、政治囚の遠隔地への移送という恥ずべき懲罰行為も停止すべきである。こうした不公平な懲罰的移送は、医薬品や食料が緊急に必要となった場合でも、家族が面会や差し入れすることを非常に難しくしている。

「ザーガナ氏、ガンビラ師、スースーヌウェ氏やミンコーナイン氏のような人々は、決して訴追されたり投獄されるべきではない。こうした人びとの活動は、母国ビルマのためになるのだ。活動を許すべきだ」と、マリノフスキは述べた。「諸外国政府の高官たちは、ビルマを訪れる際、スーチー氏との面会だけでなく、投獄中のその他の政治活動家との面会も要求すべきだ。そして、彼ら/彼女らの話をきき、勇敢で意義ある活動に対して支持を表明すべきである。」

今が重要な時期である。ビルマ政府の友好国である中国やインド、日本、ロシア、ならびに東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、そして、国連安全保障理事会のメンバー国、国連事務総長などは、今こそ影響力を行使し、全政治囚の即時かつ無条件の釈放を強く働きかけるべきである。

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