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エジプト:新生議会は 弾圧法の改正を

自由を抑圧する法・政府による人権侵害を不問とする法 議会は最優先で改正を

(ニューヨーク)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で、新生エジプト議会は、ムバラク政権が自由制限の手段として利用した法律を即時改正すべきだ、と述べた。本報告書は、法律改正・制度改革における優先分野を概説。自由制限の根拠となってきた一連の法律は、表現・結社・集会の自由や対政府批判の制限、訴追なき無期限の拘禁、人権侵害にかかわった警察のアカウンタビリティ回避に利用されてきた。

報告書「行くべき道:エジプト新議会が取り組むべき人権課題」(全46ページ)は、新生エジプト議会が、法律を権利弾圧ではなく権利保護の道具とするために、即時に改正すべき9分野を挙げている。刑法、結社法、集会法、非常事態法といった現行法は、民主的移行に不可欠な公的自由を制限し、法の支配や警察と軍による人権侵害のアカウンタビリティ実現を阻害するものである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長サラ・リー・ウィットソンは、「エジプトの弾圧的な法体系は、ジャーナリストを沈黙させ、政敵を罰し、市民社会を圧殺するために政府が何十年も使ってきた道具箱といえる。それを新生議会が解体するならば、エジプトの行きづまった政権移行は回生しうる」と指摘する。「エジプトで生まれた多くの新政党は、政府が国民の権利を二度と踏みにじることのないよう確保し、エジプト蜂起の希望に添う必要がある。」

移行期にあるエジプトの政治指導者たちは、こうした法改正を行なっていない。人権侵害的体質がいまだ根強く残っている事実に加えて、現在権力を握る軍は、現行法を利用して、デモ参加者やジャーナリストを逮捕して軍事法廷で1万2,000人以上の民間人を裁いている。将来エジプトを統治する文民政権は、ムバラク政権時代の問題のみならずこの問題に取り組まねばならなくなるだろう。

ムバラク前大統領打倒をもたらした「1月25日蜂起」1周年記念の2日前にあたる1月23日に、新たに選出されたエジプト議会下院「人民議会」が初めて一堂に会す予定だ。

エジプト軍最高評議会(SCAF)は2011年2月13日、最初の憲法宣言を出して、「移行期間に新たな法律を発令する」と明言した。ムバラク前大統領追放以降、同評議会は現行法の改正あるいはその承認、新法の発令あるいはその承認に唯一権限を持つ存在だ。しかし、新生議会の選挙が完了した今、議会が法律を可決することが可能となる。とはいえ、新しい議会の権限と評議会の権限との関係がどうなるのかは明らかでない。

この1年、エジプト国民は、ムバラク前大統領の警察国家を彩ったのと同様の人権侵害を数多く体験してきている。軍最高評議会主導下でも、過度な武力・有形力行使や超法規的処刑、拷問、非暴力デモへの攻撃、ブロガーとジャーナリストの恣意的逮捕が当たり前になり、ほとんど何も変わっていないのが現状だ。同評議会は、それら多くの人権侵害を、現行法で正式に認められていると主張して正当化してきた。

軍検察官(Military prosecutors)は、「軍侮辱」容疑や「虚偽情報流布」容疑で何十人もの活動家やジャーナリストを召喚し刑を言い渡してきた。国際人権法は表現の自由の下で侮辱する権利を保護し、非暴力の言論に対する罰則を民事の名誉毀損に限定しており、両犯罪は共に国際人権法に反する。「市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下ICCPR)」に関する公的な解釈権限を有する専門機関である国連規約人権委員会は、近時公表した「同規約第19条表現の自由」に関する一般的意見第34号で、「締約国は軍や行政府のような公共機関に対する批判を禁じてはならない」と断定した。エジプトは同規約の締約国である。

この基準に照らし合わせると、エジプト人民議会、シューラ評議会、あらゆる国家機関、軍、裁判所に対する侮辱を犯罪とするエジプト刑法第184条は、国際法に違反していることになる。新生議会は同条を、言論を制限する他の条項と共に改正すべきだ。

前出のウィットソンは、「軍がジャーナリストや抗議デモ参加者を現行法下で訴追しているエジプトの現状は、法改正なきまま指導者を変えても、自由の保障には繋がらないことを示している」と指摘する。「エジプト国民は、自らの権利を守るのは法であり、国民と価値観を共有していると主張するだけの新指導者たちではないということを知る必要がある。」

軍最高評議会は、過去30年発令され続けてきた非常事態令を解除すると約束。しかし昨年9月10日、ムバラク前大統領統治下における同令の適用を超え、その範囲を拡大した。同評議会は非常事態令を利用し、国家公安検察官がこれまでに少なくとも5件の事案を、上訴権を認めない非常時国家治安裁判所(the Emergency State Security Courts)に付託している。非常事態令と軍事司法法(Code of Military Justice)の双方が民間人を軍事法廷で裁くことを認めており、これは公正な裁判の権利を侵害するものだ。軍事法廷は昨年、1万2,000人を超える民間人を裁判にかけた。

軍最高評議会はまた、非常事態令下で新法を導入。「労働の自由に対する攻撃および施設破壊行為の犯罪化」(On the Criminalization of Attacks on Freedom of Work and the Destruction of Facilities)に関する法律第34号は、「公共業務を妨害する」ストライキやデモを犯罪化して罰金刑を科すものだ。同法の広範な条項は1914年と23年に成立した古い集会法と並び、ストライキの権利と集会の自由を侵害している。

ウィットソンは、「何万人ものエジプト国民が自らの権利と尊厳を求めて立ち上がってから約1年が経過したが、エジプト軍がいまだ非常事態令を解除しないどころか、新たに弾圧的な法律を導入していることに、驚きとショックを禁じ得ない」と述べる。

最も近時のところでは、国際協力相と法務相が、人権保護と民主主義を求めて活動する10団体に対する警察と軍の一斉家宅捜査を、独立した団体の創設と活動を不当に制限する重大問題法たる2002年導入の結社法に言及して正当化した。 軍最高評議会は、3月に政党の新設を認めるべく政党法を改正し、100以上の新たな独立系労働組合設立を認めた。にもかかわらず、同結社法改正に向けた動きは見せていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが2011年6月に、当時のエッサム・シャラフ首相とアブデルアジズ・アル・グインディ外相と面会した時、両氏は結社法改正の必要性に同意していた。しかし暫定内閣は、結社法の下で未登録のまま活動しているNGOに対する、広範な刑事捜査を開始。同法は違反の場合、関係者を投獄したり、団体を解散することができる。

ウィットソンは、「2002年結社法は、独立系の団体を排除・支配し、団体が政府に批判的になりすぎた場合に罰する自由裁量を政府に与えるムバラク時代の法だった」と述べる。「新生議会は人権団体に嫌がらせをするのに同法を利用するのではなく、NGOの独立性確保に向け法改正すべきだ。」

エジプトは数々の人権条約の締約国である。1982年はICCPRを、その2年後には人及び人民の権利に関するアフリカ憲章(African Charter on Human and People’s Rights)を批准している。しかしエジプト当局は、これまで起草した新法にて、こうした条約の国際義務に準拠しておらず、また、旧法の撤廃もしていない。

昨年4月、当時のナビル・アル・アラビ外相は、「エジプトは国際刑事裁判所の創設を定めるローマ規程を批准するだろう」と表明、「現在、人権保護に関するすべての国連条約に加盟するのに必要な措置を取りつつある」と述べた。外相はまた、「法に統制され、法の支配に従う」な国家を目指し最大限の努力を払っているとした。しかしながら、同氏がアラブ連盟事務局長に就任するため外相の地位を去った後、こうした国際条約批准に向けた動きは見られない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは新生議会の最優先課題を人権保護とし、次の即時改革を行うことを求めている:

•      非常事態令の解除、非常事態法の廃止、公共の場や国境で集会する人びとを含む民間人に対して、警察に発砲の自由裁量を広く認める警察法の改正

•          軍事司法法の改正。軍事法廷の管轄権を軍関係者による軍律違反に制限し、民間人の軍事裁判を停止するため

•          表現・結社・集会の自由を制約する法律の改正。並びに政党、市民社会、活動家団体、メディアが論争の余地のある、あるいは政治的な情報や視点を享受し、共有できる政治的空間を創造するのに必要不可欠な諸権利を制約するため

•          刑法における拷問の定義を国際法に沿って改正。これにより、警察によるあらゆる身体的・精神的な人権侵害を対象に刑を強化、法律に実際の抑止力を持たせる 

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