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イスラエル:何千人もの人びとが強制的な帰還に追い込まれる 

庇護を求めるスーダン人・エリトリア人が無期限拘禁に直面

(テルアビブ)— イスラエル関係当局は約7,000人にものぼるエリトリアおよびスーダン難民を不法に強制的な帰還に追い込んでいると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。こうした人びとは本国で重大な人権侵害を受ける危険がある。スーダンに帰還した人びとの一部は、拷問や恣意的に拘禁をされたり、イスラエルに入国したことから反逆罪に問われたりしており、エリトリア人も同じく、本国で深刻な人権侵害の危険に直面している。

報告書「惨めな人生にさせる:イスラエルから強制的な帰還に追い込まれたエリトリアおよびスーダン出身の庇護希望者」(全83ページ)は、エリトリアおよびスーダンからの庇護希望者がイスラエルで保護を申請する際に、同国の複雑な法規定が障がいとなっている問題を調査・検証したもの。これらの保護措置は、イスラエル国内法および国際法で保障されている。イスラエル関係当局はエリトリアおよびスーダン難民を「脅威」とみなし、「敵性民」のレッテルを貼る。そうして公正かつ効率的な庇護手続きへのアクセスを拒否し、その結果生まれた不安定な法的地位を、不法な拘禁の口実や無期限拘禁の脅しに用いているのだ。このことから何千もの人びとがイスラエルから本国へと追い立てられている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民問題担当上級調査員で本報告書の執筆者でもあるゲイリー・シンプソンは、「人びとを隅に追いつめて保護への希望を打ち砕いた後に、自発的にイスラエルを去ったのだと主張することは、明らかな人権侵害だ」と指摘する。「イスラエルにいるエリトリアおよびスーダン難民に残された選択は、砂漠の拘禁施設で残りの人生を過ごさねばならない恐怖と生きるか、本国で拘禁と人権侵害の危険にさらされるかの2つしかない。」

2006年、エリトリアとスーダンからエジプトのシナイ半島を通って、イスラエルに多くの人びとがたどり着きはじめた。本国でまん延する人権侵害から逃れてきたのだ。イスラエルが2012年12月にエジプトとの国境を完全に封鎖するまでに、エリトリア人約3万7,000人とスーダン人約1万4,000人が入国した。

以後8年間、イスラエル関係当局はあらゆる強制措置を取ってきた。イーライ・イシャイ前内務相およびギデオン・サール現内務相がそれぞれ言うところの「人生を惨めなものにせよ」、「非正規滞在者に帰還を奨励せよ」的措置である。具体的には、無期限拘禁や庇護申請への障壁、99.9%にのぼる庇護申請却下率、労働許可をめぐるあいまいな諸政策、そして医療アクセスへの厳しい制限などだ。

2012年6月以降、関係当局は、公式の国境通過点を経由せずに非正規入国した何千ものエリトリアおよびスーダン難民を無期限で拘禁している。2013年にイスラエル大法院はこうした拘禁を違憲と判決したが、政府は拘禁政策の名称を変更することでこれに応えた。その後政府は、エリトリアおよびスーダン難民に対し、僻地のネゲブ砂漠に設置したホロット「居住センター」での滞在を義務づける。政策の名称が変わったにも関わらず、当該施設の環境は拘禁に該当するものである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2014年1月に、ホロット施設に拘禁された最初のグループの1人に話を聞いた。21歳のエリトリア難民は言う。「ここでの暮らしはサハロニム[収容所]と変わりません。あそこで14カ月拘禁されていました。みんな長いこと拘禁されていたから、ここでも多くが精神的な問題を抱えています。私もそうなってしまうのが怖い。牢獄にずいぶん長くいますから。」

2014年8月下旬の時点で、2,000人弱のエリトリアおよびスーダン難民(うち1,000人以上が庇護申請済み)がホロット施設に、また1,000人弱がサハロニム収容所に拘禁されている。イスラエルの各都市に住む残り4万1,000人のエリトリアおよびスーダン難民も、ホロットへの出頭をいつ命じられてもおかしくない状況にある。

ホロット施設に拘禁されている難民たちは、通常の仕事や社会活動に従事することができない。こうした場所に人びとを閉じ込めることは、恣意的拘禁に関する国際法に抵触する。これらの人びとは当該地で一括の入国管理拘禁政策に基づき、なんら法的目的もなく無期限に拘禁されているのである。関係当局は、個々のケースについてその正当性を説明する義務を怠っており、これら決定に異議申立をする実効的な方法も存在しない。

被拘禁者が釈放を確保できる唯一の方法は、難民として認定されることだ。が、関係当局は組織的にエリトリアおよびスーダン人に対して、公正かつ効率的な庇護申請手続きへのアクセスを拒否している。2012年後半までは、庇護申請すら全く認めていなかった。その根拠は、イスラエルは特定国出身者を網羅する集団保護政策に基づいて、人びとの在留を容認しているため、難民資格は必要ないというものだ。

2013年2月、政府はエリトリアおよびスーダン人に対し、かなり多数の庇護申請を許可。しかしながら2014年3月の時点で、関係当局が審査した申請数は450超にすぎない。イスラエルの難民弁護士たちは一方で、各都市で庇護を希望するこれらの人びとの申請を当局が1件でも審査したという証拠は皆無だと主張する。申請却下率はこれまでほぼ100%だ。

これら政策により、エリトリアおよびスーダン難民に残された選択は、イスラエルで生涯拘禁されるか、帰国して迫害ほか重大な危害にさらされるかのみになってしまっている。

スーダンに帰還した7人は、イスラエルを去ったのは無期限拘禁を恐れてのことだった、とヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。しかし帰国後、首都ハルツームで拘禁・尋問された。3人が長期にわたり拘禁され、うち1人は拷問を受けた。2人目は独房監禁され、3人目は反逆罪で起訴された。

スーダン国内法は、イスラエルを訪れた個人に最長で10年の刑期が科されると定めている。つまり在イスラエルのスーダン人は「現地滞在中に(後発的に)難民となる者(a sur place refugee)」となる。これの意味するところは、本国を去った後の行動および起きた事柄の結果、十分に理由のある迫害への恐怖が生じたと主張する庇護希望者である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これまでに他国からエリトリアに帰国した人びとの一部が、関係当局による人権侵害を受けている事実を調査・検証しているが、イスラエルから帰国した人びとの命運については定かではない。

エリトリアで採用されている無期限の従軍奉仕を逃れたことに対する懲罰と、同国におけるその他の人権侵害は、十分な根拠がある迫害の恐れに値する。よって、国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)によると、世界中のエリトリア人庇護希望者のうち83%がなんらかの保護を2013年に認定されたという。これはイスラエルの0.1%という認定率に明らかな対称をなすものといえる。

無期限拘禁の脅しから本国への帰国に同意したエリトリアおよびスーダン難民は、ルフールマン(追放および送還)の被害者とみなされるべきだ。国際法が定めるルフールマンの定義とは、迫害の危険がある難民あるいは庇護希望者、または拷問や非人道的、尊厳を損なう扱いを受けそうな個人に対する「いかなる、あらゆる方法での」強制送還である。

前出のシンプソン上級調査員は、「イスラエル政府関係者は、『敵性民』の生活を大変みじめなものにして、難民は自主的に本国へ帰還したと主張する」と述べる。「イスラエルが、生涯続く拘禁を引き合いにエリトリアおよびスーダン難民を脅すとき、人びとはけっして本国帰還とそれに続く危険を自主的に受け入れたのではないことは、国際法に明らかだ。」

2008年以来イスラエル関係当局は、エリトリアおよびスーダン難民に数カ月ごとの更新が課された「条件付き釈放」許可証を発行してきた。決められた更新を怠ると、逮捕や拘禁、失職(許可証を持たない個人の雇用に罰金を課すと当局が警告しているため)といった可能性がある。2013年後半、当局は更新手続きへのアクセスを厳しく制限。エリトリアおよびスーダン難民が必死に更新を試みたため、大混乱が生じた。これらのコミュニティのリーダーたちによると、この制限によるストレスや、生き残るためのリソース不足に疲れ果てた多くの難民が、イスラエルを去る決断を下したという。

本報告書はまた、イスラエル関係当局のあいまいかつ不明確な労働許可政策を調査・検証した。当該政策は、多くのエリトリアおよびスーダン難民が仕事を見つけ、維持することをほぼ不可能にするもので、永続的な貧困の恐怖におとしいれている。医療へのアクセスをめぐる障壁とあいまって、これもまた本国帰還への重圧に繋がっている。

政府はイスラエルに住むすべてのスーダン人を難民に認定し、エリトリア人の庇護申請を国連難民高等弁務官事務所のガイドラインに沿い審査すべきだ。

何万件もの庇護申請を、国際難民法基準に基づき公正に審査するには数年を要するため、関係当局はエリトリアおよびスーダン難民の本国における広範な人権侵害に基づき、1年ごとに更新できる一時保護の地位を与えるべきだ。本国の状況が改善し、安全にそして尊厳をもって帰還することができるようになった場合には、この地位を取り消すこともできる。

前出のシンプソン上級調査員は、「イスラエル関係当局は、多大なリソースを何千もの不法拘禁に投入することに固執し、すべての庇護申請を却下するだけのために審査するふりをしているようにみえる」と指摘する。「そうではなく、当局はその義務遂行を重んじて難民たちを保護し、イスラエルで一時的に働きながら生活することを認めるべきだ。」

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