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ベトナム:コンサート会場への踏み込み捜査で活動家が暴行される

反体制派に対する暴力事件の捜査を

Above (left to right): Pham Doan Trang before and after the attack, and the broken helmet that was thrown by the side of the road after the beating Below (left to right): Nguyen Tin in a fundraising event for political prisoner Nguyen Ngoc Nhu Quynh ("Mother Mushroom") and after the assault; Nguyen Dang Cao Dai after the assault © Private 2018
(ニューヨーク) - ベトナム政府関係者と平服姿の男たちが、2018年8月15日にホーチミン市のコンサート会場に踏み込み、出演者1人および観客席にいた著名活動家2人を激しく暴行した、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ベトナムはこの襲撃事件について公平かつ透明性の高い徹底捜査をすべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「人権活動家、ブロガー、アーティストに対するこのような衝撃的で残忍な暴力が、急速にベトナムでの新常識となりつつある」と述べた。 「これらの暴力的な行為の加害者を捜査したり、責任を問わずにいることで、当局は反体制派に対する攻撃が処罰されることはないというメッセージを送っている。」

This kind of shocking and brutal physical assault against human rights activists, bloggers, and artists is rapidly becoming the new normal in Vietnam.
Phil Robertson

Deputy Asia Director

8月15日の夕方、ホーチミン市3区第7街区にあるカフェ・カサノバには、子どもや高齢者を含む約50人が、歌手で権利活動家グエン・ティン(Nguyen Tin)氏によるミュージカル「メモリー・オブ・サイゴン」を観劇するために集まっていた。午後9時ごろに制服姿の政府関係者や治安当局者、そして平服姿の男の一団が、一部は外科手術用のマスクを着用してカフェに乱入してきた。

侵入者の一部が現場を撮影している間に、政府関係者がコンサート主催者に対してイベント開催の許可を得ていることを示す書類を、また観客に対しては政府が発行する身分証明書の提示を求めた。観客が去り始めると、侵入者数名がそのなかから活動家のファム・ドアン・チャン(Pham Doan Trang)氏をつかんで、外に止めてあった車の中に押し込んだ。同氏は積極的な発言で知られるジャーナリスト・活動家・ブロガーで、主に人権や法の支配に関係する、幅広い事柄について執筆している。 ベトナム語と英語の両方で出版している数少ないベトナム人ジャーナリストの1人だ。

法律と人権に焦点を当て、チャン氏を編集者として擁するオンライン雑誌「Luat khoa Tap chi」のチン・フュ・ロン(Trinh Huu Long)編集長は、自身のFacebookページに、チャン氏が「3区第7街区の警察本部に連行され、尋問中に繰り返し殴られた[後略]。警察はノートパソコンや身分証明書、ATMカード、そしてベトナムドン数十万を押収」と書き込んだ。

尋問の後、警察はチャン氏を駅からタクシーで連れ去り、暗い路上におろすと、新たにタクシー代として20万ベトナムドン(8米ドル50セント)を手渡した。警察が去った直後、今度は3台のバイクに分乗した男6人がやってきて、バイク用のヘルメットでチャン氏の頭を殴打。氏は自身のFacebookページに次のように書き込んでいる。「やっと起き上がって頭の傷を触り、出血を少しでも抑えようとしていたときに、道路脇に壊れたヘルメットや破片が散らばっているのが見えました。」氏は複数の打撲傷、吐き気、めまいに苦しみ、病院で医師から脳しんとうの診断を受けている。見舞いに来た友人たちは治安当局者から嫌がらせや暴行を受けた

侵入者たちはまた、カフェで歌手のグエン・ティン氏を尋問・暴行した。彼はオンラインサイト「Dan Lam Bao」の記者に次のように語っている。「[治安当局者が]私を部屋の角に連れて行って、激しい暴行を加えました。さらに悪いことに、水のボトルで私の「左」目を殴ったので、何も見えませんでした。 私は手で顔を覆っていました。1時間ほどの暴行の後に、彼らは私の携帯電話のパスワードを聞いてきました。それに答えないでいるとさらに激しい暴行を加えてきて、コンサートの主催者は誰かと言うので、私は知らないと答えました。彼らは[後手に]縛り上げましたが、とてもきつくてかなり苦痛でした。暴行の間はビニール袋を被せられていて、加害者の顔は見えませんでした。靴も脱がされた上に今度は足をけられ、その後車に押し込まれました。」

治安当局者は現金、携帯電話、身分証明書を奪った上、ティン氏をホーチミン市の中心部から60キロ離れたクチ県の荒廃したゴム農園に置き去りにした。

ティン氏は時々、旧ベトナム共和国(南ベトナム)時代に作られた感傷的な曲を歌っていたが、これらは共産主義体制によって禁じられている。最近では、社会問題や人権問題政治囚の窮状についても歌うようになっていた。

コンサート主催者のグエン・ダン・カオ・ダイ(Nguyen Dang Cao Dai)氏もカフェで暴行を受け、同じ車で連れ去られた上、クチ県の別の場所に置き去りにされた。 氏は治安当局者が「ひどく私を暴行し、休んではまた暴行した」と明かしている。腹部および頭部を殴られたうえ、地面に倒されて靴で踏みつけられた。ティン氏もダイ氏も複数の打撲傷と軟部組織損傷を負った。

ダイ氏は建設エンジニアで、政治囚を支援する人権活動家でもある。以前は、2006年4月4日に設立されたBloc 8406という民主主義運動に参加していた。

カフェ・カサノバの襲撃は珍しい事件ではない。最近、警察の監視下にある活動家に対する暴行事件が複数起きている。6月にラムドン省で、ベトナムのカオダイ教の運動家フア・フィ(Hua Phi)氏の家に平服姿の男たちが侵入。氏を暴行した上、ひげを切り落とした

6月と7月には同じくラムドン省で、正体不明の男たちが石や手作りの火炎装置労働運動家元政治囚のドー・ティ・ミン・ハン(Do Thi Minh Hanh)氏に投げつけた。仲間の活動家ディン・ヴァン・ハイ(DinhVan Hai)氏とヴー・ティエン・チー(Vu Tien Chi)氏が、支持表明のためにハン氏を訪問した後、平服姿の男2人にこん棒で襲われている。ハイ氏はこの時、肋骨2本を骨折し、右手および左肩も負傷して入院した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2017年6月に報告書「もはや人権活動家が住める国ではない:ベトナムのブロガーおよび民主化運動家に対する暴行」(全65ページ)を発表。2015年1月〜2017年4月に正体不明の平服姿の男たちが権利運動家およびブロガーを襲撃した36の事件に着目した。被害者たちが重傷を負った事件が多いが、現場に制服警察官がいたにもかかわらず、全く介入しなかったと多くが訴えている。


ロバートソン局長代理は、「警察と明らかに連携している闇の暴漢が一連の残忍な暴力事件を起こしている。これは政治活動家に対する政府の迫害の激化にほかならない」と述べる。「ベトナムの国際ドナーおよび貿易パートナーは、暴力行為を非難し、ならず者のような行動を即時停止するよう、ベトナム政府に強く求めなければならない。」

Pham Doan Trang  ファム・ドアン・チャン


Pham Doan Trang © 2018 Private

LGBTの権利や女性の権利、環境問題、ベトナムと中国の領有権問題、警察の暴力、活動家の弾圧、法と人権など、広範にわたる話題を網羅し、単刀直入な意見で知られるジャーナリスト・活動家・ブロガー。 チャン氏の執筆した本『Chinh tri Binh dan(一般人のための政治入門)』は、2017年9月にサミズダート(訳注:地下出版)形式で出版された。また、平和的な抗議活動にも力を入れている。仲間の活動家が身柄を拘束された際の警察署や空港の外での抗議集会、反中国集会、環境保護を求める行進に参加してきた。仲間の活動家が見世物的な裁判で有罪判決を受けるのを傍聴しようとすることで連帯を示したり、投獄されている反体制派の家族を支援するために、身の危険を冒してまで定期的に訪問するなどしている。

チャン氏は嫌がらせや迫害、身体的暴力を政府軍から多々受けてきた。2009年、警察は「国家の安全」を理由に氏を9日間拘束。治安当局者はその後も、拘禁と尋問、そして抗議集会への参加や各国外交官との会談を阻止するための自宅軟禁を繰り返した。2015年4月に治安部隊がハノイ市で行われていた環境問題の抗議集会を強制的に解散させた際の負傷で、歩行が非常に不自由となっている。

2015年9月にハノイ市ハオパーチュン地区の警察本部を訪れ、仲間の活動家レ・トゥ・ハ(Le Thu Ha)氏ほかの恣意的な拘禁に抗議した。現場で治安当局者が参加者を殴打し、チャン氏の口も血まみれになった。2016年5月、ハノイ市を訪問中だったバラク・オバマ米大統領(当時)が活動家との会談にチャン氏も招いたが、氏はそれに向かう途中で警察に身柄を拘束された。2017年11月には、EUとベトナムの年次二国間人権対話を準備していたEU側の担当者と面会した後に拘禁された。2018年2月と6月にも再び拘禁され、執筆活動ほかについて尋問を受けている。

チャン氏はハノイ市のアジアン・インスティチュート・オブ・テクノロジー経営学部でMBA、 ハノイ貿易大学で国際経済学の学士を修得した。氏の記事は様々なベトナムの出版物およびオンラインメディアに掲載されている。2008年には、ベトナムの同性愛者が直面する差別と平等権への要求を描いたベストセラー本『Bong、Tu truyen cua mot nguoi dong tinh(あるゲイ男性の自叙伝)』を共同執筆した。

チャン氏のブログ「Doan Trang」は、越中関係および東/南シナ海の領有権問題など、敏感なトピックを幅広く取り上げている。投稿の大半は敏感な政治問題に関わるものだ。また、ベトナムでもっとも人気の高いニュースサイトのひとつ「VietnamNet」の一部である週刊紙「Tuan Vietnam」の編集者だった。「現ベトナムの社会的、政治的状況に関する客観的かつ正確かつタイムリーな情報」の提供を目的としたウェブサイト「Vietnam Right Now」の編集者を現在務める。ベトナムのチー・トウック社(Tri Thuc Publishing House)から出版された『Vietnam & Tranh chap Bien Dong (ベトナムと東シナ海における紛争)』の著者のひとり。また、サミズダード形式で出版されたほか2冊の寄稿者でもある。『Anh Ba Sam』:著名ブロガーのグエン・フユ・ヴィン(Nguyen Huu Vinh)氏の活動および投獄に関する本と、『Tu Facebook xuongduong(Facebookから路上へ)』:2011年〜2016年のベトナムにおける権利活動・抗議運動を記録した本。

チャン氏はその作品と活動で幅広い人権問題を取り上げてきた。第一に、表現・報道・結社・集会の自由、そして黙秘権ほかなどに関する人権教育を促進。人びとに保障されるべき権利について学ぶよう働きかけてきた。ジャーナリストおよびブロガーとして、社会的・政治的生活におけるメディアの役割にも焦点を当てている。あらゆる形態の検閲に反対し、とりわけインターネット上の情報の自由、そして報道の自由の実情を憂いている。

ブロガー仲間の助けを借りて、自身のブログで始まりから現時点までのベトナム「ブロゴスフィア」の略史を発表、今も部分的な更新を続けている。活動家や抗議集会の参加者、ブロガーの恣意的かつ不法な逮捕、新聞の強制廃刊などについてリアルタイムで執筆し、非暴力的で活発な市民社会運動を促進するために、責任ある方法でソーシャルメディアを使うよう人びとに働きかけている。

さらにチャン氏は法の支配を支持しており、2014年11月に開設されたオンライン雑誌「Law Magazine」の編集者でもある。雑誌では、弁護士と人権、強制自白との闘い、体罰、家庭内暴力、中国の法改正、ベトナムで注目を浴びた死刑判決、「ミランダ警告」の権利(訳注:米国で身柄拘束中の被疑者は、黙秘権や弁護人依頼権といった権利をすべて告知されなければならないとされるルール)等々、様々な法的問題に関する記事や翻訳を数多く公開してきた。マーティン・ルーサー・キング牧師やネルソン・マンデラ氏に関する記事もある。 

そのほかに取り組んでいる社会問題に、LGBTの権利、環境や女性に関する権利などがある。香港の「傘の革命」民主化運動のような国際問題についても政策提言活動をおこなっている。ベトナム語しか読めない読者のために運動のタイムラインとキーポイントを解説し、クリミアの人権危機では関連記事をベトナム語に翻訳した。

法学者のチン・フュ・ロン(Trinh Huu Long)氏と、法的問題について多くの記事を共同執筆している。また、「Vietnam Rights Now」や「Law Magazine」など、数多くのウェブサイトを仲間のブロガーとともに運営。ベトナムの人権問題に注目してもらうため、仲間のブロガーと海外へも何回か足を運んでいる。


チャン氏の活動は、ベトナムの深刻な人権状況に国際的な関心を呼び込むという、めずらしい試みの点でも際立っている。氏のブログにはベトナム語で書かれた記事の英語版も公開されており、政治囚の釈放を求める資料などもこれに含まれている。そのほかの投稿には、「ベトナムで国際人権デーを祝うブロガーたちの弾圧に関するレポート」「ベトナムがウイグル系移民を中国に引き渡すのは強制送還?」「国家不処罰法」「ベトナムにおけるメディアの検閲」「ベトナムにおけるブロガー運動年表」などがある。

Nguyen Tin  グエン・ティン

Nguyen Tin © 2018 Private

共産主義体制が禁じている、旧ベトナム共和国(南ベトナム)時代の感傷的な曲も時に歌う歌手。最近では、社会問題や人権問題、政治囚(チャン・フイン・デヅウィ・ドウック—Tran Huynh Duy Thucグエン・ゴック・ヌー・クイン—Nguyen Ngoc Nhu Quynh —マザーマッシュルーム、ホ・ヴァン・ハイ—Ho Van Hai —ホ・ハイ博士ほか)の窮状についても歌っている。

また、政治囚の家族を助けるための資金も調達。2018年6月には、経済特区法案およびサイバーセキュリティ法案に反対する抗議集会に参加。その後、警察により身柄を48時間拘束され、携帯電話のパスワードを教えるよう求められたが拒否。そのためにひどい暴行を受けた。拘禁中にハンガーストライキもし続けた。

Nguyen Dang Cao Dai  グエン・ダン・カオ・ダイ

Nguyen Dang Cao Dai © 2018 Private


建設エンジニア兼人権擁護家で、チャン・ホアン・フック(Tran Hoang Phuc)氏、ファン・キム・カイン(Phan Kim Khanh)氏、チャン・ティ・ガー(Tran Thi Nga)氏ほか多数の政治囚支援に従事してきた。2006年4月4日の設立日にちなんで名付けられたBloc 8406という民主化運動に参加していたこともある。2016年4月、ベトナム中部沿岸に有毒廃棄物を投棄し、大規模な海上汚染を引き起こした台湾の鉄鋼会社フォルモサへの抗議活動を展開。また中国の九段線と習近平総書記に対する抗議活動にも参加した。クリーンでグリーンな環境を目指して人気の運動をサポートしている。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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