(ワシントンD.C)―米国のジョー・バイデン次期大統領は、過去4年間に生まれた人権を守るグローバルな動きを補強するために、関係各国と協力する必要があると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の世界人権年鑑2021(ワールドレポート2021)内で述べた。バイデン次期政権はまた、米国の政治につきものの政権間の急激な変化にも耐えられるように、その人権尊重政策を強固化する方法も模索すべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は、「米連邦議会議事堂における暴動の扇動も含め、トランプ大統領は過去4年間、人権に無関心で、しばしば敵対的でもあった。それを受けてのバイデン氏の勝利は、根本的な変革の機会となる」と本世界年鑑序文で述べている。「トランプ大統領が国内では人権を無視し、国外では独裁者たちと友好関係を持ったため、国際社会における米国の信頼は著しく損なわれた。米国政府が、ロシアやエジプト、サウジアラビア、イスラエルを賞賛した結果、ベネズエラやキューバ、あるいはイランへの非難もむなしく響くばかりだった。」
米国政府が人権を守ることをほぼ放棄した中でも、中国政府やロシア政府などの強国がグローバルな人権機構の弱体化を狙った中でも、世界各国政府は人権は放棄できないほど重要だと認識していた、とロス代表は指摘する。新たに生まれた人権を守る国際的連帯には例えば、ベネズエラに対する、南米各国政府およびカナダの連帯、ロヒンギャ・ムスリムを守るためのイスラム協力機構の連帯、ベラルーシ・サウジアラビア・シリア・リビア・ハンガリー・ポーランド等の動きに対抗する欧州各国政府の連帯、中国政府による新疆ウイグル自治区のウイグル系およびテュルク系ムスリムの迫害への非難を厭わない各国政府の連帯の拡大などがある。
ロス代表は、「米政府は人権を守るために重要なリーダーではあるが、不可欠なリーダーではないことがこの4年間ではっきりした」と述べる。「その他の多くの政府が、トランプ大統領による人権保障からの撤退を、諦めではなく自らが行動するべき理由と捉え、人権を守ろうと立ち上がった。」
バイデン氏の勝利は根本的な改革の機会になるとロス代表は述べる。次期米大統領は、国内の人権保護に対する米国政府のコミットメントを強化するとともに、後継者たちが簡単に取り消せない堅固なものとし、範を示すべきだ。
ヘルスケアの拡大、構造的人種差別の撤廃、貧困および飢餓からの解放、気候変動との闘い、女性およびLGBTの人びとに対する差別の撲滅に向けた取り組みにおいても、人権保障の点から主張していくことが重要である。わずかながら民主党が多数派となった米上院および下院が、より永続的な立法に向け扉を開く可能性もある。またバイデン氏は、いかなる者も法の支配を超越できないと明確にするために、トランプ大統領の犯罪捜査を許可すべきだ。
米国外でも、人権を指針として定着させるため、バイデン氏は政治的に困難な場合でもその原則を確認・行動する必要がある。具体的には例えば次の項目が挙げられる。
- 人権問題についてしっかりした改善がみられないサウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、イスラエルなどの親権侵害的な米国の友好国への軍事援助や武器販売を規制すること
- 中国への対抗上重要な友好国とされるインドとはいえ、モディ首相によるムスリムへの差別や暴力の奨励を非難すること
- イスラエル政府による人権侵害を非難してはいるものの、国連人権理事会を再び受け入れること
- 国際刑事裁判所検察官による捜査をバイデン氏が歓迎しないとしても、同裁判所に対するトランプ大統領が課した制裁措置を無効にすること
- 一貫性に欠け、貿易中心、一方的だったトランプ大統領の対中国政策を放棄し、より原則的かつ一貫性のある多国間アプローチを採用し、他国に参加を促す政策を採用すること
ロス代表は、「トランプ大統領による人権無視ばかりが注目されてきた。しかし、近年の真の重大ニュースは、大きく注目されることはなかったとはいえ、人権を守るために自らリーダーシップを発揮した国が多く現れたことだ」と指摘する。「バイデン新政権は、こうした協働に取って代わるのではなく、参加すべきだ。 リーダーシップを発揮した国々は、米政府にバトンタッチするのではなく、人権を守る行動を継続すべきだ。一方でバイデン次期大統領は人権に対する米国政府のコミットメントの揺れ幅を縮小する政策の確立に努めるべきだ。」