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Sri Lankan President Gotabaya Rajapaksa at a campaign rally in Homagama, on the outskirts of Colombo, Sri Lanka, November 13, 2019.  © 2019 AP Photo/Eranga Jayawardena

(ジュネーブ)―過去の重大な人権侵害をめぐり、スリランカ政府が政府高官の責任を問う動きに激しく反発・攻撃している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「開いたままの傷口、高まる危険:スリランカにおける重大な人権侵害に対する責任追及を阻止する動き」(全93ページ)は、有名な7件の人権侵害ケースで法の裁きを阻止せんとするゴタバヤ・ラージャパクサ大統領の政府動向を調査・検証したもの。活動家やジャーナリスト、弁護士、被害者家族に対する政府による弾圧の現状、ならびに弱い立場にいるマイノリティがおかれた窮状について詳述している。国連人権理事会は、2021年2月22日から始まる会合で、スリランカでおきた重大な国際犯罪に関する法の裁きの必要性を支持し、現在おきている人権侵害を非難する決議を採択すべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのジュネーブ代表ジョン・フィッシャーは、「スリランカ政府の法の裁きに対する反発・攻撃は、現在そして将来の人権侵害リスクを高める」と指摘する。「国連人権理事会は、国際社会がスリランカの人権侵害を不問に付すことはしないとラージャパクサ政権に示し、被害者家族に法の裁き実現の希望を与える決議を、来たる会合で採択すべきだ。」

法の裁きに向けたスリランカ政府の取り組みは2020年に大幅に後退した。マヒンダ・ラージャパクサ政権下で起きた殺害事件および強制失踪を捜査していた警察高官たちは、すでに国外に脱出を余儀なくされたり、明らかに捏造された罪で訴追されたりしている。大統領が任命した委員会は、大統領の取り巻きや支持者が関与した刑事事件に介入しようとしてきた。

強制失踪容疑の軍・諜報当局者の裁判は延期・中断された。ラージャパクサ政権支配下の議会は、大統領の権限に関する重要なチェック機能を廃止する憲法改正を可決。これにより司法やスリランカ人権委員会などの機関の独立性が損なわれた。

2009年に終結した26年間におよぶスリランカ内戦中に、政府治安部隊および分離主義派タミル・イーラム解放の虎(LTTE)が行った残虐行為の数々は、国連報道機関ヒューマン・ライツ・ウォッチを含む国内外の人権団体が詳細に調査・報告してきた。国連の内部調査報告書「ペトリーレポート」では、内戦の最終局面の数カ月間に、国連が一般市民の保護支援をめぐり組織的な失敗を犯したことも明らかにしている。

2005〜15年にかけて、兄マヒンダ・ラージャパクサ政権の国防長官を務めたゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は、無差別攻撃や略式処刑、レイプといった数多くの戦争犯罪を犯した政府軍の行動の直接的な責任者だった。

2019年11月に大統領に選出されて以来、ラージャパクサ大統領は戦争犯罪ほか重大な人権侵害に関与した人物を次々と政府高官に任命。大統領は、国連人権理事会が採択した画期的な2015年の決議のもとで真実・法の裁き・賠償を促進するという同国の義務を、「スリランカ内戦の英雄」への反撃だとして否認。そのうえ、人権侵害で有罪判決を受けた数少ない兵士の1人に恩赦も与えた。

マイトリーパーラ・シリセーナ政権下の2015〜19年、人権侵害事件についての警察の捜査が数多く進展し、殺害事件および強制失踪に関する政府関係者の責任の証拠が明らかになってきた。が、2009年に起きた新聞編集者Lasantha Wickrematunge氏の殺害や2010年のジャーナリストPrageeth Ekneligoda氏の強制失踪、2008〜09年の海軍諜報員による身代金目的の若い男性たちの強制失踪など、重要な捜査の数々がゴタバヤ・ラージャパクサ大統領のもとで頓挫した。

タミル系の学生5人が殺害された2006年のTrinco Five事件や、フランスの支援団体Action Contre la Faimのメンバー17人が殺害された事件など、政府高官が関与したとされるそのほかの重要な事件でも進展がなかった。

ラージャパクサ大統領のもと、スリランカの報道機関に自己検閲が復活している。多数の行方不明者に何が起きたのかを知りたいと活動を続ける被害者家族や活動家に対して、治安部隊が徹底的な監視と嫌がらせを行っている。ある活動家は、新大統領の下で生まれた恐怖について次のように述べた。「大統領が受け入れがたい行為をした活動家はだれであれ逮捕されます。そのため活動家たちはほとんど何もできません、みな自己検閲モードに入っているのです。」

2009年に息子が強制失踪させられた政策提言団体Mothers of the Disappearedのあるメンバーは、大統領選挙以来、犯罪捜査局の警察官から再三にわたって訪問を受けていると語った。

「やってきた彼らは、会合に出席するのはだれか、[国連人権理事会に行くために]ジュネーブに行くのはだれかと聞いてくるんです」と彼女は証言する。「家から白いバンで連れ去られ、[軍に]投降したのは子どもたちなんです。私は息子に何が起きたのか、知りたいんです。生きているのか死んでいるのか、死んでしまったのであればだれのせいなのか、そして何をされたのか---暴行されたのか、骨折させられたのか―知りたいのです。」

スリランカ政府からの抑圧を受けて被害者家族は、国連人権理事会に人権尊重支持を訴えてきた。2020年中、政府はそんなジュネーブでの国連プロセスに関わっている活動家たちに嫌がらせを行った。

1月21日にラージャパクサ大統領は、責任追及には繋がらず、また行方不明者を探すこともできなかったこれまでの多数の委員会の調査結果を再考するため、新たな調査委を設置すると発表した。しかし政府は昨年9月、人権理事会に対して、軍の上級士官に対する申立ては「容認できない」ものであり、「実質的な証拠」もないという考えを伝えているなど、新調査委の再考結果はすでに示唆されているかたちだ。

これまでスリランカ政府はたびたび、人権問題に対応せよという国際的な圧力をそらすために国内の調査委を利用してきたが、こうした委員会が基本的な国際基準を満たしたことがなかった。国連人権理事会理事国は、ラージャパクサ政権のこの戦術に惑わされることなく、スリランカ政府の長年にわたる遅延・ごまかし・抵抗に対し、過去人権理事会がとってきた対応に基づいて自らの結論を導く必要がある。

人権理事会理事国は、最悪の国際犯罪に対する国際法の原則にそって、証拠を収集・保存・分析するための国連メカニズムまたはプロセスを設立すべきだ。そして、国連人権高等弁務官に対し、責任追及のやり方について人権理事会に報告するよう求めるべきだ。また人権高等弁務官が、スリランカ国内の事態について報告する職務(マンデート)は更新されるべきだ。諸外国政府は、信用性の高い証拠をもとに重大な人権侵害を行ったと認定できる個人については制裁措置を発動すべきだ。

フィッシャー ジュネーブ代表は、「人権理事会の新しい決議は、人権高等弁務官の報告書に詳述されている事態をしっかり反映した内容であるべきで、理事会の責任を果たす内容のものであるべきだ」と述べる。「国際的な圧力を維持するには、意味のある新決議が不可欠だ。これに失敗すれば、国際社会はもっとも重大な犯罪でさえ見逃すことを厭わないというメッセージを送ることになりかねない。それは世界各地の人権侵害者を喜ばせるだけだ」

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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