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ミャンマー:クーデター後の法制上の変更が人権を侵食

軍事政権による刑法ほかの修正取り消しを

Anti-coup protesters stage a sit-in demonstration, Mandalay, Myanmar, February 24, 2021. © 2021 AP Photo

(バンコク)–ミャンマーの軍事政権は、クーデター後の人権保護をめぐる修正を元に戻すべきだ、と国際法律家委員会(ICJ)およびヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

2021年2月1日に選挙で選ばれた文民政府を転覆した後、ミャンマー国軍が任命した国家行政評議会(SAC)は、平和的な抗議活動さえも犯罪とし、プライバシー権の侵害や恣意的逮捕・拘禁を可能にする法制度の修正を命じた。これらの変更は、国家行政評議会に代わり、ミンアウンライン将軍が議会の手続きを経ずに署名した命令をもとに行われた。

ICJのイアン・サイダーマン法と政策局長は、「クーデターに対する平和的な抗議活動を鎮圧するため、ミャンマー国軍は過剰な実力行使や威嚇に訴えるのと同時に、法制度下の既存の保護を無効化することによって、その行動に合法性という皮をかぶせようとしている」と指摘する。「合法性の原則とミャンマーの国際的義務に反するこれら修正は、ミャンマーで現在起こっている広範な人権侵害を弁解したり、正当化できるものでは全くない。」


2月1日のクーデター以来、軍事政権は次のことを行った:

  • 市民のプライバシー及び安全を保障する法律(2017)から恣意的な拘禁、不当な監視・捜索・押収からの自由など、基本的な権利保護が削除され、恣意的にいくつかの条文を一時無効にした。
  • クーデターや軍について批判的な発言をする市民や「市民的不服従運動」を支持するよう他の市民に提唱する個人を標的にするため、新たな犯罪を定めたり、既存する犯罪の定義を拡大するために刑法を修正した。
  • 宿泊客に関する報告義務を復活させるために、区・村管理法を改定した。
  • 新規の犯罪、および改定した犯罪を保釈不可とし、令状なき逮捕の対象にするため、刑事手続法を修正した。
  • サイバースペースを介した情報の自由な流れを妨げ、クーデターや軍事政権の行動に批判的な表現を含む情報の流布を犯罪化するため、電子取引法を修正した。

国際的な法的基準の下では、国家緊急事態時または合法的な国家安全保障上の目的(現在のミャンマーには適用されない条件)であっても、正当な利益を保護し、かつ保護される利益に比例するよう、人権の規制は厳密に必要とされるものでなければならない。 国家行政評議会が発した命令は、表現・平和的集会の自由、自由権、プライバシー権といった国際法が保障する権利の行使を恣意的に妨害するものであるため、この基準を満たしていない。なお、身体自主権や平等権といった特定の権利は、今回、規制の対象になっていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのリンダ・ラクディール アジア法務顧問は、「ミャンマー市民の基本的権利を奪うことで、国軍は再び国際人権保護に対する軽蔑を示した」と述べる。「軍事政権は、新たな法律を恣意的に制定することで、ミャンマー市民への弾圧を正当化することはできない。」

軍事政権による法修正の分析については以下を参照のこと。

法典の変更にかんする分析

市民のプライバシー及び安全を保障する法律(2017年)
2月13日、国家行政評議会は、市民のプライバシー及び安全を保障する法律の第5・7・8項を恣意的に一時無効にし、個人の基本的な権利保護を侵害した。

第5項は、警察が捜索または押収の目的で個人宅に立ち入る際は、常に「市民のプライバシーまたは安全に損害がないことを確保するため」、証人2名の立ち会いを義務づけていた。その義務が無効になったことで、捜索や逮捕の際の人権侵害リスクが大幅に大きくなる。

第7項は、24時間以上の勾留に対し裁判所命令を義務づけていた。その義務が無効になったことで、国際法違反が助長されることになる。国際法は刑事訴追で勾留された個人の裁判が迅速に開かれることを保障している。

第8項は、裁判所命令がない場合に、個人のプライバシー・安全・尊厳に影響するすべての捜索・押収・監視・スパイ行為・捜査を禁ずることにより、個人のプライバシー権を保障していた。が、これらの保護を軍事政権が排除した。国際法の下では、プライバシー・家族・家・接触が恣意的な干渉の対象となることはない

刑法修正

2月14日に国家行政評議会が刑法の修正を発表した。これは、言論の自由を行使する何千人ものデモ参加者や、何らかの手段を用いて軍事クーデターを公に批判する個人が刑事責任を問われる可能性に繋がる。

国家行政評議会は、特に、クーデターまたは軍事政権の不当性をめぐるコメントを罰するのに適用可能な条項505Aを新たに加えた。「恐怖を与える」「偽のニュースを流布する」「公務員に対する刑事犯罪を直接的または間接的に扇動する」コメントを犯罪とし、 違反すれば最高で禁錮3年と定められている。

従来の第505(a)項は、陸軍、海軍、または空軍の士官、兵士が反乱を起こすか、さもなくば義務を無視するか失敗することを意図した、あるいはその可能性が高まる」あらゆる「声明、うわさ、報告」を公開または流布することを犯罪と定めていた。が、文民分野で安全保障関連の職務に就く公務員に対し、市民的不服従運動への参加を促す個人の罪を問う目的が明らかな、より広範な文言で修正された。

修正条項下では、軍人および公務員の「モチベーション、規律、健康および行動を妨害、損傷」し、軍や政府に対する憎悪、不服従または不忠を呼ぶようなあらゆる試みに最高で禁錮3年が科されることになる。

第124項の「反逆」条項も大幅に拡大された。政府に対する「憎悪または軽蔑をもたらす」または「不満を刺激する」コメントをすでに犯罪と定めた第124A項が、防衛関連任務および防衛関連要員をめぐるコメントを含むものに修正され、軍または軍関係者に対するあらゆる批判を事実上、犯罪化した。違反すれば最高で禁錮20年が科される。

新たに追加された第124C項では、「国家の安定の維持に従事する防衛および法執行機関の活動に対する妨害または遅延」を意図した個人に最高で禁錮20年を科すと定めた。当該条項は、治安部隊が市民的不服従運動に参加することを奨励したり、無許可の抗議活動を許可したりすることを犯罪としている。

第124D項は、公務員の職務遂行を妨げる場合、最高で禁錮7年が科されると定めている。当該条項は非常に広範であり、ありとあらゆる抗議行動が、治安要員または防衛関連要員の任務遂行を妨げたと解釈される可能性がある。

刑事訴訟修正法

2月14日、軍事政権は刑事訴訟法改定法を修正し、条項505A、124C、および124Dに基づく犯罪の保釈を不能に、また令状なき逮捕を可能にした。

区・村管理法(13/2/21)

区・村管理修正法(13/2/21)は、人びとの移動、とりわけ自宅から離れた場所に避難しようとしている人権活動家を監視する軍の力を強めた。第17項の修正により、他の区または村からの宿泊客に関して、滞在区または村の行政管理者に報告することが義務づけられた。第13項により「宿泊客リストを提出しなかった」個人に対して「措置を講じる」権限が行政管理者に付与された。第27項は、宿泊客の報告義務を怠ったことに対する刑事制裁を再導入するものだが、こうした規定は以前の軍事政権下にも存在し、市民から多大な反感を買っていた。

電子取引法(法律第7/2021号)

2月15日に軍事政権が電子取引法を修正し、サイバーセキュリティ法案で提案された条項が盛り込まれた。

そのサイバーセキュリティ法案下で非常に批判された点がそうであったように、修正された電子取引法も、「サイバー犯罪」「サイバー誤用」、またはあらゆる犯罪捜査に関連する個人情報に、政府諸機関、捜査官、または法執行機関がアクセスすることを許可するもの。

修正条項にはいくつか(第38条(d)および(e))、オンライン資料への「不正な」アクセスに対する刑事罰を規定し、内部告発者、調査ジャーナリスト、または漏洩した資料を使用する活動家の訴追に適用されうるものも含まれている。

第38B項は、「個人情報を無断で取得、開示、使用、破壊、変更、配布、または他者に送信すること」を禁錮1〜3年の犯罪と定めている。インターネット上のプライバシー権保護は重要だが、当該規定はプライバシー権の正当な保護をはるかに超えており、表現の自由を恣意的に規制するものだ。

とりわけ「個人情報」は、事実上、個人に関連するあらゆる情報が含まれるよう広範に定義されている。当該法は、人権侵害疑惑に関与した人物のあらゆる情報を、人権活動家やジャーナリストなどが公開することを妨げる可能性が高く、したがって到底容認できないほど曖昧かつ広範だ。

第38C項は、「サイバースペース上で公共のパニック、信頼の喪失、または社会の分断を意図した誤報または偽情報」の作成を犯罪とし、罰金に加えて禁錮1〜3年を定めている。これらの規定は同様に曖昧かつ広範で、クーデターや軍事政権への批判を含め、インターネット上における表現の自由の行使を不必要かつ不釣り合いに規制するものだ。

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