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ミャンマー:シャン州で武装勢力による侵害行為

拉致や強制徴兵は戦時国際法に違反する

A man sits in front of a house in Shan State that was destroyed during fighting between Myanmar security forces and the Ta'ang National Liberation Army, January 10, 2023.  © 2023 Sipa via AP Images

(バンコク)ミャンマー北部の民族武装勢力が、シャン州での戦闘から逃げる民間人を拉致し、強制的に徴兵した、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ミャンマー国軍にも、成人に強制労働をさせ子どもを徴兵してきた長い歴史があるが、軍事政権の支配下にある地域での違法な活動について最新の情報を得るのは困難である。

コーカン民族の武装勢力であるミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)は、民間人に対する侵害行為を直ちに止め、ミャンマー国軍や軍政支持の民兵組織との戦闘の際には、民間人を保護するためにとりうる策をすべて講じるべきである。

「民間人を拉致し強制的に徴兵することでMNDAAは戦時国際法に違反しており、それら民間人を深刻な危険に晒している」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長、エレイン・ピアソンは述べた。「民間人は、ミャンマー国軍または民族武装勢力による強制徴兵を恐れることなく、戦闘を逃れて安全を求めることができなければならない」

アラカン軍、MNDAA、タアン民族解放軍からなる連立組織である「3兄弟同盟」は2023年10月27日、シャン州北部でミャンマー国軍の前哨基地を標的にした「1027作戦」という攻勢を開始した。この攻勢をきっかけに国内の他地域でも反国軍政武装集団による攻撃が始まった。10月末以降、反国軍政勢力と国軍との間の戦闘によってシャン州では10万人近く、全体で60万人以上が避難民となった。

シャン州北部のコーカン特別自治区の中心地ラウカイからは、かつてそこを支配していたMNDAAによる攻撃を見越して数万人が避難した。MNDAAは以前は閉鎖されていた森の中の道を開けて避難民を支援したが、現地のメディアや目撃者によれば、MNDAAは避難民から携帯電話を没収し、人数は不明だがラウカイを離れようとしている人を拘束した。

MNDAAは11月24日、ラウカイからミャンマー・中国国境に近いチンシュエホーに向かっていた7人の男性を拉致した。その親戚らはシャン・ニュース・ヘラルドに対し、男性たちの友人が、7人がチンシュエホーにごく近い道端で拘束されているのを見たのが最後だったと述べた。シャン・ニュース・ヘラルドの報道によれば、MNDAAのスポークスパーソンはサイアイノー(18)、マウンニーカ(19)、サイリアンハン(20)、サイイロー(26)、マウンノーグーン(26)、サイアウンヘン(27)、そして名前が不明の7人目の男性(20)が入隊させられると述べた。

11月25日、同じ経路でラウカイを離れた医師が、ラウカイとチンシュエホーとの間にあるパーシンチョーという村の近くで多数の若い男性がMNDAAの兵士に止められ、拘束されるのを見たと述べた。

「彼ら[MNDAAの兵士]はオートバイに2、3人で乗っていた男性を止めていた」と医師は述べた。「男女の2人組は止められず、私は後部座席に女性の看護師の一人を乗せていたので止められなかった。でも多くの若い男性が止められており、彼らが集められるのを見た。怖かったので止まらず通り過ぎたが、その男性たちは集められてどこかに連れて行かれていた」

12月12日、10月末にラウカイを逃れてから自宅に戻らなかった別の7人の若い男性の親たちがMNDAAに書簡を出し、7人を解放してほしいと訴えた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手したこの書簡で親たちは、息子たちを最後に見たのはチンシュエホーの近くでMNDAA兵士に連れ去られているところだったと述べた。拉致されたのは全員がタアン民族で、シャン州北部ナムサン郡マンカイト村の出身だった。

MNDAAはシャン州北部の中国・ミャンマー国境沿いで活動している。MNDAAは1989年のビルマ共産党の崩壊と同時に設立され、同年ミャンマー国軍との停戦に合意した。その停戦は2009年、MNDAA内でミャンマー国軍に同調する一派がコーカン国境警備隊となり、ラウカイの管理を任されたことで終わった。ラウカイでは違法活動が盛んになり、最近ではオンライン詐欺の拠点が集まっている。MNDAAは、2009年に奪われたラウカイを含む領土を取り戻そうと何度も試みてきた。

MNDAAのほかにも、指定した人数の新兵を提供するよう村や世帯に求める民族武装勢力もある。その新兵が兵役に就くのを厭わない場合もある。ミャンマー国軍と軍政支持の民兵組織も、武装組織を補強したり、荷物運搬人、調理人、掃除人などの役割を担わせたりするために、子どもを含めた強制徴兵を行っている。

広く拡散され、ヒューマン・ライツ・ウォッチが視聴し本物であることを確認した12月5日付の映像では、制服を着たMNDAAの高官が家族らに対し、責任逃れをせず、入隊者が15歳以上で50歳未満であるようにしろと警告する。

この高官は「男の子がいないなら…女の子がいるなら…3人いるなら[1人は入隊しなければならない]」と、シャン州北部のモンコー郡パンセン村の僧院に集まった人たちに言う。「子どもが5人いるならそのうち2人は入隊しなければならない。わかったか?家に5人の男性がいるなら、そのうち2人は入隊しなければならない」

高官はこう続けた。「だから、心配だから息子や娘を連れてこないことにしようと考えているなら、それは止めるべきだ。…いつか平和になってその子らが戻ってくるときには、住民登録情報を集め、入隊しなかった者がわかるから、その者たちを逮捕する」

ミャンマーでの非国際的な武力紛争に適用される国際人道法あるいは戦時国際法のもとでは、紛争当事者は拉致や強制徴兵などを通じてどんな人からも恣意的に自由を奪うことを禁じられている。当事者はすべての民間人を人道的に扱わなければならず、自由を恣意的に奪うことはこの要件に違反する。

ミャンマーは2019年9月、子どもの権利条約の「武力紛争における児童の関与に関する選択議定書」を批准した。この議定書のもとで、非国家武装集団は「いかなる状況においても、18歳未満の者を採用し又は敵対行為に使用」しない義務を負う。2019年の「ミャンマー子どもの権利法」も、18歳未満の者を国の軍隊または非国家武装集団に入隊させることを禁じている。

2023年の「子どもと武装紛争に関する国連事務総長年次報告書」は、前年に子どもを徴兵し使用したことを国連が確認した事例のうち大多数がミャンマー国軍によるものだったと特定した。しかしこの報告書は、MNDAAが最大で7人の子どもを徴兵したこと、それとは別に最大で7人の子どもを拉致したことも指摘した。ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者のトム・アンドリューズも、2021年の軍事クーデター以降ミャンマー国軍による子どもの徴兵と使用が増えているという多数の報告を受けている。

「ミャンマーの反軍政勢力や民族武装勢力に対して少しでも影響力を持つ政府は、それらの勢力に対し、ミャンマー国軍が違反をしているからといってそれらの勢力による侵害行為が正当化されることには決してないことを強調するべきである」とピアソンは述べた。

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